まりっぺの事どうおもう?


「矢口さんの事どう思う?」
突然、吉澤に話しかけられた。
「え・・・どうって?」
石川は突然の質問に戸惑った。
「いや・・やっぱりいいや」
吉澤はそう言って立ち去ってしまった。

「何が言いたかったんだろう?」
石川は不思議に思った。
吉澤は矢口に敵意でもあるのだろうか?
石川は気になってそれとなく吉澤と矢口を見るようになった。
師弟関係であるだけに一緒にいる時間は長い。
石川にはただそれだけに見えた。

石川は逆に吉澤に聞いて見た。
「矢口さんの事どう思う?」
吉澤は一瞬顔を強張らせた。
「い、いや・・別に・・・」
はっきりしない答えしか返ってこなかった。
石川はますます気になったがそれ以上聞く事はしなかった。


他の人に何があるのか聞いてみようかと思った。
しかし、もし何か重大な事で、吉澤と矢口に問題が起きたら困る。
石川は自分の心の内にこの事はしまっておいた。
それにしても何だろう?
石川は疑問というよりも興味が沸いてきた。

「りかっち、トーク練習してきたぁ?」
矢口はそう言ってケラケラ笑った。
いつも通りだった。
たんぽぽである石川も矢口と接する機会は多かった。
いや、むしろ最近は吉澤より接する時間が多くなってきているかもしれない。
もしかしてそれと吉澤の発言と何か関係あるのだろうか?
石川は一人色々と考えていた。

自分が矢口とどう接するかで吉澤の態度がどう変化するのか試して見ようと思った。
石川は吉澤の見ている前で矢口と接するよう心がけた。
「矢口さーん、あの、振りの事なんですけど」
石川は積極的に矢口に話しかけた。
そして吉澤の動向を伺った。

石川の見た吉澤の表情は険しかった。
石川は怖くなって少し矢口から離れた。
「どうした?」
矢口が不思議そうな顔で見ていた。
なぜあんなに険しい表情するのだろう?
あんな顔の吉澤は初めてだった。
石川はますます何があるのか知りたくなった。

「ね、ね、矢口さんの事どう思う?」
「うるさい!」
しつこい石川に吉澤は怒った。
何をそんなにムキになるのだろう。
石川はむしろ吉澤がムキになるのが面白かった。
石川はますます矢口に接近して行った。

「矢口さーん」
石川は矢口にべたべたとくっつくようになった。
吉澤の顔は赤くなったり青くなったり。
石川はそんな吉澤が面白くてたまらなかった。
そして、矢口を独占しているという優越感も感じていた。

「ちょっと・・・」
吉澤が険しい顔をしながら話しかけてきた。
「なに?」
石川は何もなかったかのような顔で答えた。
「や・・矢口さんにあんまり近づかないでくれる?」
「なんで?」
「いや・・・それは・・」

「とにかくなんでも!」
吉澤は急に怒り出した。
石川は反論した。
「なんで?矢口さんの事をなぜひとみちゃんに言われるの?」
吉澤は黙ってしまった。

「矢口さんはひとみちゃんのもの、ってワケじゃないでしょ」
吉澤の顔はみるみる赤くなっていった。
「あ・・や・・」
「なに?」
しどろもどろの吉澤。
ついには吉澤は怒って行ってしまった。
石川は嬉しかった。
吉澤を打ち負かした事に。

それから石川と矢口は更に接近していった。
石川にとってもう吉澤はどうでも良かった。
なんとなく、吉澤が何が言いたいのかも分かっていた。
石川の目には矢口だけが映っていた。

「もう、いいかげんにしてよ!」
吉澤がヒステリックになって石川を責めてきた。
「なんで?」
石川は冷静に答えた。
「もう、矢口さんには近づかないで!」
吉澤は涙目だった。
「だから、なんで?」
石川は聞き返した。

「矢口さんは私の・・・」
「は?」
「私のものなの!」
吉澤はそう言った後顔が真っ赤になった。
「ひとみちゃんのもの?」
石川は笑った。

「邪魔しないでよ」
吉澤は急に静かな口調になった。
「邪魔?」
石川は答えた。
「邪魔もなにも・・・いつからひとみちゃんのものになったワケ?」

吉澤は黙ってしまった。
石川は更に続けた。
「ひとみちゃんこそ邪魔してるんじゃない?」
吉澤はその言葉を聞いて激高した。
「な・・・!」
吉澤は石川に飛びかかった。

「何するの!」
石川は必死で吉澤の手から逃れた。
「あんたなんか・・・」
吉澤は手にハサミを持った。
石川の背筋が凍った。

吉澤はハサミを持って石川に飛びかかってきた。
石川は必死で吉澤の手を掴んだ。
そのまま倒れこむ二人。
「や、やめてよ!」
石川は必死に抵抗した。

勢いあまってハサミが吉澤の顔に大きな傷をつけた。
「あ・・・」
二人は凍り付いた。
吉澤の顔から血がポタポタと落ちてきた。
そして、その血は石川の顔に降り注いできた。

「な・・・何やってるの!」
矢口がその場に現れた。
矢口は吉澤と石川を引き離した。
ハサミは、石川の手に握られていた。
「よっすぃー・・・と、とにかく病院へ」
矢口は吉澤を連れて行ってしまった。
石川は血のついたハサミを呆然と眺めていた。

程なくして矢口が戻ってきた。
石川はとっさにハサミを隠した。
「よっすぃーは病院に行ったから」
矢口の表情は険しかった。
「一体何があったの?」
矢口は石川に問い詰めた。

「まだみんなには言ってないけど・・・こんな事が知れたら」
「辞めさせられちゃうかも」
矢口はため息をついた。
「それは・・・嫌です」
石川は小さな声で答えた。
「じゃ、何があったのか話して」
矢口は強い口調で石川に迫った。

「その・・・」
石川は何も話せなかった。
少しの沈黙の後、矢口が口を開いた。
「言えないの?」
矢口はまたため息をついた。
「あ・・でも・・・辞めさせないでください」
石川は涙目になった。
「辞めさせられたら・・・矢口さんと離れちゃうじゃないですか」
石川の言葉に矢口は驚いた。
「はぁ?」

「矢口さんと離れたくないんです!」
石川は大声で叫んだ。
矢口は驚いて一歩下がった。
「何言ってんの・・・」
矢口は目を丸くしていた。
突然、石川は矢口に抱き付いた。
「矢口さん!」

「ちょっと!」
矢口は石川を突き飛ばした。
「一体何考えてるの?マジ?」
矢口はかなり怒っているようだった。
石川は悲しそうな顔をした。
「矢口さん・・・やっぱり受け入れてもらえないんですね」

「受け入れるって?何考えてるの!」
矢口は怒鳴った。
「もう、いいよ」
そう言って矢口は石川に背中を向けた。
そして歩き去ろうとした。
石川は矢口の背中を見つめていた。
ハサミを両手で握り締めて。

刃先が肉を掻き分ける鈍い感触がした。
「な・・・」
矢口はそう言ってその場に倒れた。
石川は背中にハサミが刺さったままの矢口をそっと抱き起こした。
矢口は意識を失っていた。

石川は矢口の顔を手で撫でていた。

「これで・・・矢口さんは私のもの・・・」

おしまい。

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