2 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 18:55
我輩は流れ猫である。
気がつけば小さなダンボール箱に入れられて道路にいた。
母親の顔も良く憶えていない。
捨てられた、と気づくのに3回くらいの夜が来た。
もう今日で5回目の朝がやってきた。
ハラペコだ。
3 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 18:56
箱の前を沢山の人が通る。
大人たちは見てみぬふり。
子供たちは散々おれで遊んだあげく飽きればまた箱に戻して行く。
誰もなにも食べ物をくれない。
都会は冷たいところだ・・・。
4 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 18:57
もう空腹で死にそうだ。
死ぬときは猫生が走馬灯のようによみがえると言うが、それほどまだ生きていない。
ぐったりして箱の中で寝ていると誰かが箱の前で立ち止まった。
女だ。
女は少し立ち止まって考えているようだった。
そしておれの前でしゃがみこんだ。
5 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 18:57
「随分人相の悪い猫やな」
女はおれの顔を見てそう言った。失礼な女だ。
「ずっとここにおったん?気がつかへんかったわ」
おれはハラが減って限界だったので女は無視して箱の中に寝転がった。
寝転がってみて気づいたのだが、タイトスカートをはく女のパンツが見えそうだった。
おれはもう少しで見えそうなので箱の中で色々姿勢を変えてみた。
6 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 18:58
「なんや・・・ごろごろして。可愛いやんか」
女のそんな言葉は気にせずにパンツを覗こうとする。あと少しで見えそうだ・・。
と、その時女はおれを抱きかかえた。
パンツが見れなくなってしまった・・・・。
女はおれを顔のあたりまで持ち上げた。
女が顔を近づける。少し酒臭いようだ。
「ずっと一人でおったんか?」
7 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 18:59
「一人は寂しいよな・・・」
女は勝手なことばかり言う。
ほっといて欲しい。おれは一人が好きなのだ。
ただ、食べ物はくれても良いぞ。
「ウチも一人で寂しいんや。一緒やな」
女は寂しそうな顔をした。
8 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 19:00
「そや!一緒に住もうか?」
「ほんまはダメなんやけどな。ウチのアパート」
「ま、こっそり・・」
どうやらこの女はおれを飼うことにきめたようだ。
それも悪くない・・食べ物に不自由しないだろうからな。
嫌になったら逃げ出せばいいだけの話しだ。
「よし!そうしよう!」
女はおれを胸のあたりに抱きかかえた。
9 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 19:00
そして歩き出した。
途中で女は何か思い出したようだった。
おれをまた顔のあたりまで持ち上げて、おれの顔を見て女は言った。
「ウチは中澤裕子言うんや。よろしくな」
そして女はまたおれを胸のあたりに抱えて歩き出した。

こうして(流れ猫)と中澤裕子という女の共同生活?が始った。

12 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 19:06
「ウチはなぁ・・まだ東京出てきてそんなに立ってないねん」
女は歩きながらおれに言った。
「まだここら辺も詳しくなくてなぁ」
女はキョロキョロと何かを捜しているようだった。
そしてこうこうと明るい建物めざして歩き始めた。
「お腹減っとるやろ・・・ちょっと待っててや」
そういうと女はおれを建物の前で離した。
建物には大きく「7-11」と書いてあった。
13 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 19:09
ドアが開いて女が出てきた。
「お・・・ええ子や。ちゃんと待ってたんやな」
女は嬉しそうな顔をしてまたおれを抱きかかえた。
女の手には「猫元気」とか書いてある箱を持っていた。
どうやら食べ物のようだ。助かった。
「モーニングコーヒー飲もうよ〜」
女は歌を歌いながらまた歩き始めた。
14 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 19:13
「さ、ここがウチの部屋や」
女はそういっておれを解放した。
「明日色々買ってこんとなぁ」
女はそう言ってがさがさと何かしていた。
おれはとにかく食べ物が欲しかった。
さっきの箱を開けようと試し見るが上手くいかない。
女がやってきて箱を開けてくれた。
「そんなにお腹減ってたんか」
女はにこりと笑った。
15 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 19:40
おれは気持ち悪くなるほど食べた。幸せだった。
「もう、終わりか?」
女は箱を手にとってどこかへ持っていってしまった。
しまった・・ちゃんと食べ物のありかをチェックしておくべきだった・・あとでそう思った。
女は戻ってくるなりおれを抱え上げた。
「随分汚れとるなぁ・・風呂入るか?」
そう言って女はおれを小さな部屋に連れていった。
16 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 19:43
女は小さな部屋にある大きな箱に水を入れ始めた。
「ちょっと待ってるんやぞ」
女はそう言っておもむろに服を脱ぎ始めた。
風呂というのは水あびの事だったのか。
おれは悩んだ。おれは水が嫌いだ。
でも、逃げたら女の裸を拝めない。
おれは海より深く悩んだ。
17 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 19:48
おれは急に後ろから掴まれた。
そして水をぶっかけられた。
後ろ向きになってて女の裸が見れない!
おれはなんとかしようとじたばたした。
「こら!そんなに暴れるんやない」
女はますます力を強めておれを羽交い締めにした。
妙な匂いのする液体をかけられた。
そしてまた水をかけられた。
18 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 19:52
そのままおれは大きな布でごしごしと拭かれた。
「さ、もうええよ。やっぱり風呂は嫌いなんやな」
女はそう言っておれを放した。
おれは焦って女の方へ振りかえった。
「バタン」
無常な音がして扉が閉まった。
女はおれを残して風呂に入った。
遺憾だ。きわめて遺憾である。
19 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 19:55
次の日、おれは女に小さな箱に詰め込まれた。
「ちょっとだけ我慢してや・・ここに置いていくわけにいかんのや」
「大家さんに見つかったら大目玉や」
女はそう言って箱のふたを閉じた。
真っ暗な箱はぐらぐらとゆれ始めた。
また捨てられてしまうのだろうか?
おれは不安になった。
20 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 19:58
かなり時間がたったあと、箱のふたがあいた。
ふたが開いて飛びこんできた明かりはとても眩しくておれは目を閉じた。
「きゃー!可愛い!」
なにやら沢山の声がきこえてきた。
「裕ちゃん抱かせて!」
「ええよ」
おれはおそるおそる目を開けてみた。
そこには五人の女の顔があった。
21 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 20:01
その中の一人がおれを抱きかかえた。
そして次から次へと回される。
とにかくあまりにもウルサイ。
「ちょっとぉ、なっちにも抱かせてよ!」
「なっちはさっきも抱いたでしょ!順番順番」
ひときわ背の高い女は加減を知らないらしく力いっぱいおれを抱いた。
いや、抱いたというより絞めた。
苦しい。おれは苦しくて暴れた。
22 名前:我輩は(流れ猫)である。投稿日:2000/08/23(水) 20:06
「かおり、そんなに力いっぱい抱いたら死んじゃうよ」
ひときわ横に大きな女が背の高い女からおれを取った。
この横に大きな女は優しくおれを抱いてくれた。
「可愛いなー。私も欲しい」
そう言っておれの周りを女たちは取り囲んだ。
イイ気分だ。
おまけにこの女は腕が柔らかくて気持ちいい。
おれは眠くなってきた。

はっと気がつくと、周りは静かになっていておれは箱の中にいた。
また捨てられたのかと思い焦って周りをみてみた。
さっきの部屋だ・・・。おれはほっとした。
「猫ちゃんお目覚め?」
五人の中で一番髪の毛が多い女がそう言っておれを抱きかかえた。
「あー!彩っぺずるい!猫で遊んでる」
残りの四人が入ってきた。
五人とも同じ色の服を着ている。なぜだろう?

「ねぇ、裕ちゃん。猫の名前は決めたの?」
ひときわ甲高い声の女がおれの飼主に聞いた。
「名前か・・考えてへんかったわ」
それからおれの名前を決める会議を五人は開いた。
「捨てられてたから捨て猫!」
「そのまんまやないか・・かおり」
「じゃあ、捨てられ猫は?」
「ギャグにもならんぞ・・彩っぺ」
「待って・・・実は捨てられてたんじゃなくて、どこからか流れ流れて旅してきたのかも」
「そんなワケないやろ!あすか・・・」
「あ、でもそれかっこいい!捨てられ猫流れ者猫!」
「なっち・・・」

「捨てられ猫流れ者、でどう?」
「長い名前やな・・」
「じゃあ、カッコ付けようよ。捨てられ猫(流れ者)。どう?」
「かっこいいー!」
「それに決定!」
「あんたら・・人の猫にそないな名前付けて・・」
「今日からあんたは捨てられ猫(流れ者)ね」
甲高い声の女はおれを頭より高く持ち上げて嬉しそうに言った。
おれの名前は「(流れ者)」に決まったようだ。

それから多くの月日が流れた。
おれは中澤という女にあちこち連れられていた。
ほかの猫よりは退屈しなくてイイ。
おれを弄んでいた中澤を除く四人はしだいにおれには目もくれなくなった。
おれとしては清々したのだが。
目もくれなくなった理由は日に日に多忙になっていったからだった。

四人に更に三人が増えた。
ひときわ小さいのはよくおれを虐めていた。
弱弱しい感じのやつは気が利くやつで、他のやつらが遊んでいるときもおれの世話を忘れなかった。
もう一人はおれには目もくれずに歌ばかり歌っていた。
中澤という女はこのグループの仲間が増えたのに嬉しそうではなかった。
そして一人減った。

一人減った日の夜、中澤はいつもに増して酒を煽っていた。
そして時には怒り、時には泣いた。
おれを突然捕まえては苦しいほどに抱いた。
中澤はおれが言葉がわからないと思っているらしく、色々とボヤいた。
おれは静かに聞いてやった。
それがおれを拾ってくれたこの女に対する礼のつもりだった。

中澤という女はいつもの仲間とは離れて一人であちこち旅をしたりしていた。
もちろんおれも一緒だった。
「一人は寂しいな」
これがこの女の口癖だったのに、なぜ仲間と離れているのだろう。
中澤の目は輝いていた。
一人なのに。

時がたちまた一人、最初からいた髪の毛の多い女がいなくなった。
人が増えたり減ったりするたびに中澤が涙を流す回数が増えていった。
おれはなるべく中澤のそばにいてやるようにした。
情が移ったのだろうか?
中澤はよくおれに言った。
「みんななんで仲良く出来へんのかなぁ・・・」

また新しい人間が増えた。
トラ色の髪の毛をした女である。
この女が増えてからこのグループはなんだか風向きがおかしくなってきた。
最初のころからおれと付き合いのあった甲高い声の女も背の高い女もおれをまったく相手にしなくなった。
中澤も前にも増して厳しい表情が増えた。
おれはここに居づらくなった。

おれはとうとう中澤という女を捨てて旅に出ようと中澤のいない隙に部屋を飛び出していった。
外は雨が降っていた。おれのニガテな水だ。
おれはとりあえず雨が止むまで待とうと思い、軒下でしばらく時間を潰していた。
すると誰かの走る足音が聞こえてきた。
おれはとっさに柱の影に隠れた。
足音は案の定中澤だった。

中澤の顔には涙が流れていた。
「(流れ者)〜!どこいったんや!」
「お〜い」
中澤は雨を気にせずに外に出た。
ずぶ濡れになりながらおれの名前を呼ぶ。
おれは胸が苦しくなってきた。

「(流れ者)〜!」
女は必死になりながらおれを捜していた。
もう顔は雨なのか涙なのか分からないほど濡れていた。
それでも捜し続ける中澤。
おれは堪えられなくなってニガテな水が降る中、中澤目掛けて走った。
中澤はおれにすぐに気づいて地面にひざをついておれを迎え入れた。
そして力いっぱいおれを抱いた。

中澤はおれの顔に頬を摺り寄せてきた。
「良かった・・・・」
「あんたまでウチを見捨てたんかと思った・・・」
「お願いや・・・ウチの前から絶対消えんといて」
雨はどんどん酷くなってきた。
中澤はいつまでもおれを抱いていた。

おれが気がつくとなにかの台の上に乗せられていた。
白い服を着た男がなにか喋っていた。
隣には中澤が居て涙を流していた。
「風邪から来た肺炎ですね」
「残念ですが・・もうあといくばくかと」
男はそう言った。

中澤は泣きながらおれを抱いて歩いた。
「ごめんな・・早く連れてこれれば良かったのに」
そう言っておれの頭を撫でた。
「まさか・・こんな事になるとはなぁ」
「あの時・・・すぐに雨から逃げればよかったんや」
「ウチが忙しいばっかりに・・・・」
中澤の涙がおれの顔に当たった。

中澤の仲間はさらに四人増えていた。
全員ガキだ。
ガキは嫌いだ。
捨て猫だった頃のイヤな思い出があるから。
とくに歯並びが悪くてろれつの回らないガキはおれに付きまとってうるさかった。
おれは日に日に体がだるくなってきて、ガキの相手がうざったくなっていた。
中澤は悲しそうな目でおれを見ていた。

ある日目がさめると体が動かなくなっていた。
おれは死が目前にせまっているのが分かった。
中澤に気が付かれないように逃げ様と思うが体が動かない。
なんとか動こうともがく。
しかし苦しくて動けない。
「(流れ者)?」
中澤に気づかれた。

「あんた・・・」
中澤は不安そうな表情を浮かべておれを抱いた。
おれは体中の力が出なくてまるで糸の切れた人形のようだった。
呼吸も苦しくなってきた。
これまでか。
おれは覚悟を決めた。

中澤は泣き始めた。
気にする事はない。おれは十分幸せだった。
「(流れ者)・・・」
今になって思えばその意味不明の名前も悪くない。
「ありがとう、(流れ者)」
それはこっちのセリフだ。

もう意識がなくなってきた。
中澤の腕の中で死ぬのか。それはそれで気分がいい。
「ウチはまた一人になってしまうんやな・・・」
おれは中澤の顔を見上げた。
中澤、おまえは一人じゃないぞ。
待っている人が沢山いる。
あのうるさいガキどもはまだまだおまえがいないと何も出来ないじゃないか。
がんばれ中澤。
ありがとう。それなりに楽しかった。
さようなら。

「(流れ者)?」
中澤の声が聞こえた。
おれに聞こえた音はそれが最後だった。
終。

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