辻は今日も今日とて失敗を繰り返していた。
「あー!もう!辻ちゃんしっかりしてよ!」
安倍の怒号がまた今日も響く。
テレビでは可愛いキャラかもしれないけど、他では失敗ばかり。
「まあまあ・・・そんなに怒るなや」
中澤がフォローに入った。毎回同じパターンだ。
「辻ちゃんがんばれー」
矢口が声をかけてくれた。毎回同じパターンだ。
(なんで私は失敗ばっかりするんだろう・・・)
辻は半泣きだった。

「ちょっと休憩にしようか。辻は残って」
夏先生の言葉でみんなレッスン室から出て行く。楽しそうに笑いながら。
辻はまた居残りレッスン。
広いレッスン室に夏先生と二人きり。
夏先生は両手を腰にあてて、ため息をついた。
「辻・・・しっかりして」
「すびばせん」
鼻声になって辻は返事をした。
一生懸命やってるんだけど、上手くいかない。

夏先生は辻の頭を軽く叩いた。
「辻は頭のイイ子だから、すぐ覚えられるはずだよ」
辻は何も言えなかった。夏先生の優しい言葉も虚しいだけ。
「がんばっておぼえてきます・・・・」
それしか言えなかった。
夏先生は、ふぅ、とまたため息をついた。
「じゃ、練習しよう」
辻だけの特別レッスンが始まった。

家に帰ると辻は自分の部屋に飛び込んだ。
荷物を床に置くと自分はベッドに倒れこんだ。
「疲れた・・・」
さすがの元気娘もへとへとになっていた。
「練習しなくっちゃ」
辻は頭でそう思いながら猛烈な眠気に襲われていた。
「あぁ・・・練習しなくちゃ」
そう言って辻は眠ってしまった。

あ・・・は・・し・・・を・・・うのが・・・いなの・・・ないでね」
どこからかの声に辻は飛び起きた。
あたりをキョロキョロと見回したが誰もいない。
「夢かぁ・・・・」
そう言って辻はまた寝ようとした。
「あ!練習しなくっちゃ」
辻は今度こそ飛び起きて、借りてきたMDをステレオに入れた。
ステレオからは今度の新曲が流れてきた。
辻は一生懸命頭でフリを思い浮かべながら練習に没頭した。

 次の日、レッスン室で新曲の振りつけ。
泣いても笑っても最後の練習。
忙しい「娘。」たちには十分にレッスンに時間を割けなかった。
辻は、不安だった。
昨日の自宅の練習でも一回も上手く出来なかった。
始まる前から半泣き状態の辻。
でも、誰もフォローしてくれない。みんな必死なのだ。
だからこそ、辻はみんなの足をひっぱりたく無かった。

 「じゃ、始めましょう」
夏先生の言葉でフォーメーションを組む「娘。」たち。
辻も自分の最初の位置に着いた。
音楽が流れてくる。始まった。
辻は無我夢中だった。頭が真っ白になった。

 曲が一通り終わった。
「辻ちゃん」
夏先生の声が聞こえた。みんなが一斉に辻の方を向いた。
辻は目をつむって首を縮めた。
「凄いじゃん。完璧に出来てるよ。その調子」
夏先生の以外な言葉にきょとんとする辻。
自分では出来てないつもりだったのに、出来ていた。
「なんだぁ。やれば出来るじゃん。大丈夫だね」
安倍の声が聞こえた。今まで聞いた事の無い言葉。
「がんばったんよなぁ、辻」
中澤が頭を撫でて来た。
辻は信じられないといった表情だった。

 自分では信じられなかったが、辻はフリを完璧にマスターしていた。
その証拠にレッスン中、一回も失敗しなかった。
夏先生は他のメンバーに指示を出してばかりで、辻には何も言わなかった。
「なんか急に良くなったね。なんかあったの?」
矢口が声をかけてきた。辻は矢口の言葉に首を大きく横に振った。
「そうなんだ・・・やっと本領発揮なのかな?あはは」
矢口はそう言って嫌味の無い笑いをした。
辻は嬉しかった。最高の気分だった。
どうして突然出来るようになったのか分からないけど。

 夜になり、辻は自分の部屋で寝る準備をしていた。
「今日は良い日だったなぁ・・明日も良い日でありますように」
誰にお願いしているのか分からないが、そう言ってベッドに入った。
今日は気持ち良く寝られそうだ。
「おやすみなさい」
電気を消した。

 「あなたは・・・・をすく・・・・いなのわす・・・ね」
また変な声で目がさめた。
辻はあわてて電気をつけた。
やっぱり誰もいない。
辻は少し怖くなった。
頭を横に大きく振って、気持ち悪い声を振り払おうとした。
しばらく静かにじっとしていた。また声が聞こえるかもしれない。
しかし、何も声はしなかった。
それでも怖いので、辻はステレオをかけたまま寝ることにした。

 次の日、テレビ番組の収録。
辻は何もかもソツ無くこなせた。
収録が終わった後、加護が話しかけて来た。
「ののちゃん凄いなぁ。コツとかあるの?」
辻は自分でも何が良いのか全然分からなかった。
ただ、突然、何もかも上手く出来るようになっていた。
加護以上に不思議そうな顔の辻を見て加護は言った。
「天性なのかなぁ・・羨ましい」
加護は笑った。辻はまだ不思議そうな顔をしていた。

 その日の内に新曲のPV撮影があった。
一人ずつ監督の指示通りに踊り、撮影が進んで行く。
辻の番が来た。
辻は踊りを間違えてしまった。また失敗だ。
監督は撮影を一時止めた。
辻はまた怒られると悟り、首を縮めていた。
監督は何やらスタッフと話しこんでいた。
話しの終わった監督はこう言った。
「辻ちゃんのやったヤツを採用しよう。撮り直し」
メンバーの「え〜」という声が聞こえてきた。
辻は呆然としていた。

 夜。
辻はベッドに入って考えていた。
何か自分の良い様にすべての事が進んでいる。
嬉しいけど、何か怖い。
今まで失敗ばかりしていた自分はまるで嘘のよう。
というより、今の自分が嘘のよう。

 「あなた・てん・みんなを・・・しめい・・・わすれないでね」
また例の声がした。辻は飛び起きた。
いつのまにか眠ってしまったようだ。
これで三日連続だ。さすがに夢では片付けられなくなってきた。
辻は怖くて親の寝ている部屋に行った。
親に説明した。信じてもらえなかった。
でも、親に一緒に寝てもらう事にした。

 次の日。大雨。
今日もテレビの収録。
安倍が遅刻してやって来た。
「ごめんー」
それを見た保田が一言。
「またぁ?まったく・・・」
保田の言葉に反応する安倍。
「何?またケンカ売ってるの?」
熱くなる安倍と保田。いつもの光景。

 「今日もがんばろーね」
矢口が甲高い声で話す。
「いつも無駄にテンション高いんだから・・・」
後藤が聞こえるように言う。
「何?ごっちん。何か言った?」
「別に何もー」
「メインだからって最近態度大きいよね」
矢口が後藤に詰め寄る。
「いつまでも飛び道具な人に言われたくないんだけど」
後藤は矢口の方を向かずに呆れ顔で言う。
いつもの光景。

 「ウチは・・・やっぱりこの世界向いてないみたい。才能無いし」
弱気な発言をする加護。
「一生懸命やってるんですけど・・いつも空回り。みんなの迷惑になってる気が」
悩む石川。
「どいつもこいつも!なんで言う事聞いてくれへんのや!」
怒る中澤。
いつもの光景。

 番組の収録は滞り無く終了。みんなプロ。
収録が終わった後、辻は一人で事務所に呼び出された。
居残りもそうだったけど、一人にされるのは不安だ。
事務所に入って聞かされた事は、辻をメインにしてみよう、という事だった。
「そそそそそんなむむむ無理ですぅぅぅ」
辻は動揺しているのが分かりやすいリアクションだった。
まだ無理まだ早い自信が無い許してください、と連発してしゃべった。
結局、辻の意向も考えてもう少し時間を見るという事で収まった。
「じゃ、帰っていいよ」
その言葉に辻は帰ろうとした。
「おおおおお疲れさまでしたした」
意味不明の挨拶をしながら辻は焦って帰った。
あまりに焦ったので事務所の入り口で転んでしまった。

 夜になってやっと落ち着きを取り戻した。
「私がメイン・・・?嘘みたい」
辻はまだメインは無理だと自分で思っていた。事実、断った。
でも、「メインにしてみよう」と自分が評価され期待されている事が嬉しかった。
モーニング娘。に入ってから失敗ばかりで自信を失っていた辻。
でも、今日の一件で自信を取り戻せた。自分もやれる、と。
「なんだか上手く行きすぎてるよ」
少し疑心暗鬼にもなった。
辻は、あまりの嬉しさに「声」の事などすっかり忘れて幸せそうな顔で眠りについた。

 「あなたは天使。みんなを救うのが使命なの。忘れないでね」
どこからかの声に辻は驚いて飛び起きた。
今まで不明瞭だった言葉が今日ははっきり聞こえた。
部屋は眩しいほど明るかった。電気もつけていないのに。
あまりの眩しさに辻はしばらく目が開けられなかった。
きっと幽霊だお化けなんだどうしよう。
辻は何も見えないままその場から逃げようとした。

 何も見えない状態で上手く動けるはずがない。
辻はベッドの隅に足を引っ掛けて転んだ。
床に寝転がったままじたばたとその場を逃れようとする辻。
「何もかも忘れてしまったようですね」
例の「声」は初めて違う内容の言葉をしゃべった。
明るさにようやく目が慣れてきた辻は、声のするほうを見た。
そこには、小さな羽根の生えた人間が浮いていた。

 「〇仝⊂≪∀※δΨ!」
辻は驚きのあまり意味不明の言葉で叫んだ。
体が硬直して動けなくなった。
小さな羽根の生えた人間はため息をついた。
「あなた・・自分のやるべき事も自分が何であるかも忘れてしまったのですか?」
辻は、ただ呆然と小さな人間を眺めていた。

 小さな人間は続けて話した。
「あなたは天使の見習いなんですよ。それも忘れてしまったのですね」
「進級試験の追試で人間界に降りてきたのでしょう」
「試験の内容も覚えていないでしょうね・・当然」
「今のあなたの仲間のいさかいや悩みを解決するのが試験の内容です」
「期間は・・・もう一週間しかありませんよ」
「出来なければ落第ですよ」
「前々から監視していましたが、あまりに鈍いので少し力をあげたのですがね」
「試験の内容とは関係の無い事で時間を使いすぎましたね」

 「思い出してもらえましたか?」
小さな人間の言葉に辻は黙って首を横に大きく振った。
「そうですか。しかし、もう期日は迫ってます」
「ここの最近、何もかも上手く行くようになったでしょう」
辻は大きく首を縦に振った。
「それは、私が力を与えたからです」
「本来の目的からすっかり離れていましたから」
辻はなんとなく納得がいった。

 辻は初めて口を開いた。
「私は・・・ここには残れないんですか?」
「いずれみんなと離れ離れになっちゃうんですか?」
小さな人間は答えた。
「それは試験の結果しだいです。失敗すれば強制送還します」
「成功すれば”留学”という形でそのまま人間界に残れるでしょう」
「あなたの努力しだいです」

 「みんなと離れるのは嫌です。このままで居たいです」
辻は小さな人間に訴えた。
「それでは、努力してください。いいですか?期間はあと一週間です」
小さな人間はそういうと突然消えてしまった。
部屋は真っ暗になった。
辻は小さな人間の言葉を思い返していた。
「みんなのいさかいや悩みを解決する事かぁ」
難しい試験だった。でも、クリアしなければ今の自分は無くなってしまう。
何が何でもやり遂げなければならなかった。
「いさかいって・・・どういう意味だろう?」

 次の日。雑誌の取材。
辻は注意深くメンバーを観察してみた。
安倍と保田。いつも揉めてる。
矢口と後藤。いつも言い争ってる。
加護と石川。いつもなにか悩んでる。
中澤。いつもイライラしてる。
この人達を救うって・・・・。
辻は目の前が真っ暗になった。

 とにかく何かやらなければならない。
まずは話しやすい加護からだ。
ソファーに座ってジュースを飲んでいる加護の隣に座った。
「なんか最近元気無いね」
辻は意識するあまり不自然な話し方をしてしまった。
「そう?」
加護は不思議そうな顔をした。
失敗した、と辻は思った。

 「ののちゃん・・ウチって才能無いんかなぁ」
加護はジュースをテーブルに置き、うつむきながら話した。
「いつも目立てないし、トークも上手く無いし」
辻は加護の話を聞いて答えた。
「亜依ちゃんは歌上手いじゃない」
加護は辻の言葉を聞いて辻の方を見た。
「ありがとう。でも、歌上手い人は他にもいっぱいいるし」
「ウチは埋もれて行くばっかり」
辻は何て言うべきか考えていた。
 「ウチもののちゃんみたくなりたいよ」
加護の言葉で辻はますますフォローしにくくなってしまった。
何を言っても嫌味になってしまいそうだった。
辻はしばらく考えてこう言った。
「私には私の、亜依ちゃんには亜依ちゃんの個性があるじゃん」
加護は答えた。
「その個性が欲しいの」
状況はますます悪くなった。

 辻は黙ってしまった。
「ごめん。気にしないで」
加護は笑って辻に言った。
「ウチはののちゃんが羨ましいだけ」
そう言って加護は立ちあがった。
「あ・・」
辻は何かを言わなければと思ったが何も声に出せなかった。

 夜。辻は加護のフォローが出来なかった事を悔やんでいた。
「失敗しちゃった・・・」
どう言えば加護を元気づけてあげられるのだろう?
加護の求めているものは加護の持ち味とは違うものらしい。
「難しいよ・・・・」
辻は落ち込んだ。

 次の日。オフ。
辻は石川に電話して一緒に買い物にでも行こうと誘った。
石川は快くOKしてくれた。
今日は上手くやらなければ。
時間は少ない。

 楽しい買い物も一段落して、二人で喫茶店に入った。
会話が弾む。
辻は石川の悩みをどう切り出したら良いのか悩んでいた。
「どうしたの?」
暗い顔でもしてたのか、逆に石川に聞かれてしまった。
「え!?いや・・なんでも無いよ」
辻は焦って答えた。

 「悩み事でもあるの?」
石川はさらに突っ込んできた。
辻の悩みごとは石川だとはさすがに言えなかった。
「恋の悩み?」
石川は嬉しそうだった。
違うって・・・・。
辻は上手くない自分に苛立ってきた。

 「辻ちゃん、悩み事があるならなんでも言ってね」
石川に励まされてしまった。
辻にとって石川はお姉さんである。石川としては当然の態度なのだろう。
「りかちゃんは悩みとかある?」
逆手をとって石川にふってみた。
「悩みねぇ」
石川は困った顔をした。

 「ねぇ、私って浮いてるかな?」
石川はやっと悩みを打ち明けだした。
「浮いて無いと思うよ」
辻はあっさりと返した。
「トークとか・・・いつも周りが静かになっちゃうんだけど」
辻は吹き出しそうになった。笑ってはいけない。
「もう少し落ち着いて・・しゃべればどうかなぁ」
辻は笑いをこらえていた。

 「落ち着いて、か・・・焦ってるように見える?」
石川の言葉に辻は小さく頷いた。
「一生懸命なんだけどね」
石川は寂しそうな顔をした。
「普段通りでいいんじゃない?りかちゃんテレビの前だと興奮ぎみに見えるよ」
辻は言った。
「そうかな・・・」
石川はますます寂しそうな顔になった。
なにか嫌な流れになってきた。

 「でも、りかちゃんは清純派?だからそのままでもいいのかも」
辻の言葉はだんだんフォローじゃなくなってきた。
「うぅ〜ん」
石川は考え込んでしまった。
「とととにかく、大丈夫だよ」
辻は困ってしまった。
これじゃ悩みを解決するのではなくて、ますます酷くしているような・・・。

 結局、石川は結論を出せないまま辻と分かれた。
辻はまた失敗してしまった自分が情けないと思った。
「人の悩みを解決するのって難しい・・・」
「私はがんばれとしか言えないよ」
辻はがっくりと肩を落としながら家路についた。

 次の日。夕方から打ち合わせ他。
全員が事務所の指定された部屋に集まる。
全員・・・一人足りない。
「また・・・・」
保田が険悪な感じで話した。
安倍が足りない。

 「いやー。ごめんごめん」
相変わらずの甲高い声を響かせながら安倍が部屋に入って来た。
「なっち・・・遅刻や」
中澤が不機嫌そうに言った。
「ごめんねぇ」
安倍は中澤に両手を合わせて謝った。
「毎回毎回・・・学習機能無いのかしらね」
保田が吐き捨てた。
「鳩なみの脳みその人に言われたくないけど」
安倍は答えた。

 「どこのユニットにも入れてもらえないくせに」
保田は安倍のそばに寄って大声で言った。
安倍も負けてはいない。
「いつまでも影の声のくせに」
「真希にメインとられたくせに!」
保田は今にも殴りそうだ。
「や、やめなよー」
矢口が仲裁に入った。

 「え、えーと・・やめましょうよ」
辻は勇気を出して仲裁に入った。
安倍も保田も聞く耳を持ってくれなかった。
「辻ちゃんは黙ってた方がいいよ」
矢口が言った。辻は素直に従った。
「さすがお姉さん。年下には優しいのね」
後藤が矢口に言った。
「私も年下なんだけどなぁ」

 「何が言いたいの?ヒラメ」
矢口は悪意たっぷりに後藤に言った。
「はぁ〜。先輩面しないで欲しいって。新人にイイ顔するのやめて欲しいって」
後藤もやりかえす。
「イイ顔してるのは誰なのかなぁ。カメラの前では別人さん」
矢口も興奮してきた。
「プロだから。カメラの前でもあからさまな考え無しは誰?」
後藤。
辻はオロオロするばかり。

 「みんなやめてくださぁい!」
辻は大声で叫んだ。
そして泣いた。
あたりは一気に静かになった。時間が止まったようだった。
安倍と保田、矢口と後藤はそれぞれ背を向けて離れて椅子に座った。
「ふぅ・・・じゃ、本題にいこうか」
中澤が沈んだ声で話し始めた。
辻も泣きながらも椅子に腰掛けて話を聞いていた。
夜。
辻は落ち込んでいた。
加護も石川も救えない。
さらに今日のケンカも何も出来なかった。
「私って本当にナンにも出来ないんだ・・・」
自信を失った。
 何も出来ないまま三日が過ぎた。今日で四日目。
今日もテレビ収録。
新曲のプロモーションで忙しい。
昨日の険悪な雰囲気は今日もそのままだった。
辻は、ケンカの当事者とばらばらに話してみる事にした。
まずは安倍からだ。
辻は安倍と二人きりになるチャンスをうかがった。

 トイレに行く安倍。辻がついていく。
自分でも怪しいと思いつつも安倍を追う。
トイレで安倍に話しかけた。
「あの・・・安倍さん」
安倍は辻にまったく気づいていなかったようで、辻の声に驚いていた。
「あ、辻ちゃん・・・・・」
辻はどう切り出すべきか迷った。
「なんか用?」
冷たい態度の安倍。焦る辻。
「なっち、お腹痛いんだけど」
「あ・・・すみません」
辻はそう言ってトイレを出た。
「生理かぁ・・・」
何のためにトイレに行ったのかますます怪しい感じになってしまった。
今日のところは安倍は止めておこう、と思った。

 保田が楽屋に一人で居た。保田は椅子に腰掛け、雑誌を読んでいた。
辻はチャンスとばかり保田に近づいた。
「あのぉ・・・保田さん」
辻の呼びかけに保田は気がついた。
「ん?何?」
保田は雑誌から目を離して辻を見た。
辻は保田の隣の椅子に腰かけた。
保田は雑誌を机に置いて、辻の方に体を向けた。

 「あの・・安倍さんの事なんですけど」
辻は単刀直入に聞いてみた。今までの失敗を踏まえて。
保田は険しい顔になった。辻は少し怖くなった。
しかし、辻は引き下がるわけにはいかなかった。
「どうしてあんなに嫌うんですか?」
保田はますます険しい顔になった。
「どうしてって」
保田はそこまで言って考えこんだ。

 しばらく考えた後、保田は口を開いた。
「なっちはね、なんでも許されちゃうんだよ。それが悔しい・・・かな」
辻には意味がわからなかった。辻のきょとんとした顔を見て保田は続けた。
「遅刻だけじゃなくて、間違いも失敗もすべて許されちゃってる」
「だから、私みたいな人間の苦労なんて知らない」
「自己中心的・・・だけど、実際中心になっちゃってる」
「私の苦労とか努力を嘲笑ってる」
辻は黙って聞いていた。

 「私の被害妄想かもしれないね・・・でも」
「でも、なっちは何も考えてない。考える必要も無い」
「あの人に苦しむ人間の気持ちは分からない」
辻はそこまで聞いて口を開いた。
「安倍さんに、はっきりその事を言いました?」
保田は突然の辻の言葉に言葉を飲んだ。
保田はうつむいて答えた。
「言ってない・・・悔しいから」

 「話し合いで解決しないんですか?」
辻は保田の気持ちを安倍に伝えるように諭してみた。
「話し合い?だから・・・なっちには理解出来ないの」
「分かるかなぁ。分っかんねぇだろうなぁ」
保田はニヤリと笑った。
辻は真剣にどうしたらいいか悩んでいた。
「・・・・・」
保田は少し寂しそうな顔をした。
 「ガチャ」
ドアが開いた。辻と保田はドアの方を向いた。
安倍が入って来た。
安倍は何も言わず自分の荷物へ一直線に歩いて行った。
保田は机に置いてあった雑誌を手に取り、読み出した。
「で、まだ何か用?辻ちゃん」
保田は急に冷たい態度で話し始めた。
「い・・・・いえ」
辻はそう言って立ちあがって楽屋を出た。
「ふぅ」
辻はため息を一つついた。

 辻の後ろでドアが開いた。安倍が続けて出てきた。
安倍は静かにドアを閉めた。辻は安倍を見ていた。
「圭ちゃんと何話してたの?」
安倍の質問に辻は返答に困った。
「なっちの話?」
辻はどきっとした。
顔に出てしまった。

 「やっぱりそうなんだ」
安倍の突っ込みに辻はますます焦った。
「あの・・その・・仲良くしてもらいたいな、と思って」
辻はしどろもどろになりながら答えた。
安倍はドアに背を持たれてしばらく考えていた。
「なっちが悪いんだけどね」
安倍は意外な言葉を口にした。

 安倍は続けた。
「でもね、なっちは自分の信じるやりかたで行きたいの」
「圭ちゃんのやりかたも間違いでは無いと思うけど」
「でもね、それをなっちとか他の人に強制するのはいけないと思う」
辻は黙って聞いていた。
「辻ちゃんは関わらない方がいいと思うよ」
「辻ちゃんの立場が悪くなるといけないから」
安倍はそこまで言うとドアから背を離し、廊下を歩いて行った。
辻はそのままその場に立ちすくんでいた。

 辻は、自分がこの世界から消えてしまうという小さい人間との話は忘れていた。
ただ、心の底からみんなに仲良くしてもらいたいと思った。
でも、どうしたら・・・。
辻は自分の無力さを感じていた。
「私だけじゃ何も出来ないのかなぁ」
辻はそう言って歩き出した。

 次の日。昨日とは別の局での収録。残り三日。
辻は気持ちが重たかった。何も解決できないまま無駄に時間を費やしていたからだ。
楽屋に入り椅子に座る。挨拶にも元気が無い。
となりの椅子に誰かが座った。辻は隣を見た。
「あ・・おはよう」
隣に座ったのは吉澤だった。
「なんだか元気ないね。どうしたの?」
吉澤は辻の様子に気がついた。

 「んんー。ちょっとぉ」
辻は返答に困った。実は天使、なんて言ったら変人扱いされるに決まっている。
「なんでもお姉さんに相談してごらん?」
吉澤はいたずらっぽく笑った。
辻はどうしようか考えていた。
しかし、一人ではどうにも出来ないという事を思い出した。
「あのね・・・」
辻は思いきって吉澤に相談してみた。
加護や石川、安倍と保田の事を。

 「そうかあ・・・そんな事悩んでたんだね」
吉澤は驚いた顔をしていた。
「ののちゃんって・・・天使みたいだね」
そう言って吉澤は笑った。辻はドキドキしていた。
「でね・・よっすぃーにも協力して欲しいんだけど・・」
辻は無理だとは思いながらも協力をお願いしてみた。
「うーん・・私に何が出来るか分からないけど・・ののちゃんだけの問題じゃないしね」
「協力するよ」
吉澤は思いのほか気軽にOKしてくれた。

 「じゃ、早速矢口さんと後藤さんの仲を良くしましょう」
辻は吉澤にそう言った。
「ちょ・・・イキナリ?」
吉澤は焦った。
思い立ったら吉日な辻。
「よっすぃーは後藤さんと仲いいから・・まかせた」
そう言って辻は楽屋を出ていった。
吉澤は呆然と楽屋に残っていた。

 矢口を捜して走る辻。
「こら!廊下走るんやないっ!」
大きな声で怒られた。
急ブレーキをかける辻。
声の主は中澤だった。
「まったく・・・」
そう言うと中澤はため息をついた。

 「中澤さん、すみません」
辻は素直に謝った。
「いや、いいんや。気ぃつけてな」
中澤は元気が無さそうだった。
辻は中澤に聞いてみた。
「元気無いですね。どうしたんですか?」
中澤は辻の顔を見た。

 「いやな、怒られるんはいつもウチやから」
中澤はツラそうに言った。
「リーダ−やから仕方無いんやけどな」
中澤はため息をついた。
「怒られるって・・・私達のせいでですか?」
辻は聞いてみた。
「ま・・そうなんやけどな。みんな個性豊かやから」
中澤はしゃべるたびに元気が無くなって行くようだった。

 「リーダーいうのは損な役や。別にやりたくないのにな」
中澤の声のトーンはますます低くなった。
「でも・・・中澤さんが一番信頼されてますし」
「信頼されてるからこそリーダーに自然となったんじゃないんですか」
辻は中澤に言った。
「でもなぁ・・・ウチはそういうの向いてないねん」
中澤は腰に手をあててうつむいてしまった。

 「向いてるかどうかはみんなが一番良く知ってるんじゃ・・」
辻の言葉を遮って中澤は言った。
「そのみんながウチを困らせてるんやけどな」
辻は中澤の言葉に何も返せなくなった。
「あ・・ごめんな。ののは優しい子やからつい・・・」
「気にせんといてや」
中澤は辻の頭を撫でた。
「さ、収録が始まるで。行こか」
辻は中澤の後を黙ってついていった。

 収録が終わると吉澤が声をかけてきた。
「どうだった?」
「うー」
辻は唸るばかりだった。
吉澤は辻に何があったのか聞いてみた。
「中澤さんに捕まって・・」
辻は中澤の悩みを吉澤に話した。

 吉澤は辻の話にため息をついた。
「中澤さんの悩みも解決してあげたい」
辻はそう言った。
「でもね・・いっぺんに色々やらない方がいいと思うよ。一つ一つ解決した方がいいと思う」
吉澤は辻にアドバイスした。
辻は頷いた。

 「で・・後藤さんはどうだった?」
辻は吉澤に聞いてみた。
吉澤は首を横に振った。
「矢口さんの名前聞いただけで表情変わるし」
「何も言ってないのに化粧のオバケだの短足だの発育不良だの」
「押されまくって何も出来なかった・・ごめんね」
吉澤はまたため息をついた。
辻もため息をついた。

 次の日。あと二日。もう後がない。
今日は夕方から雑誌の取材の後、カード用の写真の撮影。
時間が無い事に焦る辻。
「一つ一つ・・・でも時間が無いよ」
辻は途方にくれた。

 スタジオに行くと加護と石川が言い争っていた。
「なんでそんなに冷たくするの?」
「冷たくなんてしてへん」
「冷たいよぉ」
「普通にしてるだけや」
間に割って入る辻。
「ののちゃんはあっち行って!」
石川は大分興奮しているようだった。
「そんな言い方酷いやろ」
加護は冷静だが冷い感じで言い放った。

 「二人ともやめて!」
辻は叫んだ。また新しい問題が・・・。
辻の叫び声を聞いて吉澤と中澤が来た。
「なにしとるんや!」
中澤の怒号が響く。
静かになる一同。
「ご、ごめんなさい」
辻が一番最初に謝った。当事者でもないのに。

 「私が悪いんです」
石川が言った。加護は黙っていた。
「いや、誰が悪いとかちゃうねん。学校や無いんやから」
中澤が言った。
「ここは職場なんや。プロとして仕事する場所なんや」
中澤はため息をついた。
「分かってくれや」
寂しそうに中澤は言って、立ち去った。

 中澤を見て辻は、また悩みを増やしてしまったと思った。
吉澤が話しかけてきた。
「何があったの?」
石川も加護も何も話さなかった。
困る吉澤と辻。
「ちょっと・・・」
吉澤はそう言って石川の手を掴んで無理やり連れて行ってしまった。

 「亜依ちゃん・・・どうしたの?」
辻は加護に聞いてみた。
「何も無いよ。りかちゃんが急に私にだけ冷たいとか言い出した」
加護は不満そうな顔をしながら言った。
「普通にしてるつもりなんだけど」
そう言うと加護はため息をついた。
「ウチは冷たいかなぁ?」
加護は辻に聞いた。

 「うーん・・・そうは思わないけど」
辻は加護に答えた。
「でも、受け取り方は人によって違うから」
辻の言葉に加護は答えた。
「じゃ、どうすればイイ?いちいち人に合わせて喋るん?」
加護は少し機嫌が悪くなったようだった。
「そ、それは・・・」
辻は困ってしまった。

 「ウチはりかちゃんがどうして欲しいのか分からないよ」
「だから・・普通にしてる。何か間違ってる?」
加護の言葉に辻は何も言い返せなかった。
吉澤に手を引かれて石川が戻ってきた。
石川は加護の顔を見ないで言った。
「亜依ちゃんごめんね」
それだけ言うと石川は歩いて行ってしまった。
吉澤は辻に肩をすぼめるしぐさをして、ため息をついた。

 「すれ違い・・・かな」
吉澤は言った。
「そんな、恋愛でもないのに」
加護は飽きれた顔をした。
「亜依ちゃん・・・」
辻はなんて言ったらいいのか困っていた。

 「もう行かないと、ほら」
加護は辻と吉澤に言った。
「そうだね・・・」
何も解決できないまま辻は答えた。
加護は歩いて行ってしまった。
吉澤と辻は顔を見合わせた。
「はぁ」

 「どうしたらいいんだろうね」
辻は吉澤に聞いてみた。今や頼りは吉澤だけだった。
「・・・・うーん」
吉澤は腕を組んで考え込んでしまった。
吉澤と辻の前を安倍や後藤や中澤が通りすぎる。
誰も声をかけなかった。

 「何悩んでるの?」
唯一声をかけてきたのは矢口だった。
吉澤と辻は驚いて矢口を見た。
「え?なになに・・・矢口のこと?」
矢口はそう言って笑った。
辻は突然声が出た。
「そうです」

 矢口は驚いた顔をした。
「マジで?」
辻は小さく頷いた。吉澤は突然のことに驚いて辻を見ていた。
「矢口さん・・・後藤さんの事嫌いなんですか?」
辻は迷わず矢口に聞いてみた。
吉澤も矢口を見た。
「嫌い」
矢口は答えた。

 「なぜなんですか?」
辻はなおも矢口に聞いた。
矢口は少し考えた後答えた。
「自己中だから」
「そんな事無いと思いますけど」
吉澤が口を挟んだ。
矢口は吉澤を睨んだ。
「そんな事無い?」
矢口の迫力に吉澤は黙ってしまった。

 険しい顔の矢口にそれでも突っ込む辻。
「自己中なんですか?」
今度は辻を睨む矢口。
「娘。に入ってきてチヤホヤされて自己中になってる」
「矢口や圭ちゃんやサヤカの苦労なんて知らないし」
「チヤホヤされるのが当然みたいな態度!許せない」
矢口の迫力に冷や汗が出てくる。
それでも辻はがんばって視線をそらさなかった。

 「後藤さんには後藤さんの苦労もあると思います」
辻は矢口に言った。
矢口は辻の言葉に驚いてしばし黙った。
「ののちゃん」
吉澤が辻の肩を触った。
「みんな・・・苦労したり悩んでいます」
辻は続けた。手に汗を握りながら。

 「矢口さんは優しいです。きっと分かってくれると信じています」
辻の言葉に動揺をかくせない矢口。
「それは買かぶりすぎ」
矢口はそう言って歩き去っていった。
矢口が見えなくなると緊張がとけてふらふらする辻。
「ののちゃん大丈夫?」
吉澤が辻を支えた。

 今日で最後の日。
昨日は結局調子が悪そうだと帰されてしまった。
今日もテレビの収録がある。
もう無理なのは承知。でも最後までなんとかやってみよう。
そう心に決めて辻はスタジオ入りした。

 しかし、すべての問題を今日一日で解決するのはさすがに無理だろう。
そして、きっと自分はこの世界から消えてしまうのだろう。
そう思うと辻は涙が出てきた。
楽屋で泣いている辻を見かけた吉澤が声をかけてきた。
「ののちゃん・・・大丈夫?」
辻はすべてを話したかった。しかし信じてもらえないだろう。
「どうしたの・・何でも相談してよ」
吉澤は辻の手を握って言った。

 「実は・・」
辻はゆっくりと今まであった事を話してみた。そしてこれからの事も。
吉澤は目を丸くして驚いていた。
「信じてもらえないだろうけど」
辻の目から涙が頬を伝って大量に流れていた。
吉澤は少し考えた後、言った。
「ののちゃんがそんなに思いつめてるから・・・きっと本当の事なんだね」
「私は信じるよ」
吉澤の言葉を聞いて吉澤に抱きつき大声で泣く辻。
吉澤は辻の頭を撫でてあげた。

 「どうしたんや」
辻の泣き声を聞いて中澤がやってきた。
「誰かにいじめられたんか?誰か言ってみい」
中澤は優しい声で辻に声をかけた。
辻はただ泣いていた。
辻が返事をしないので困る中澤に吉澤が答えた。
「それが・・ののちゃん事情があって娘。辞めなくちゃいけないかもしれないんです」
中澤は驚いた。

 「それホンマか?」
中澤は焦った。
「事情ってなんや?」
中澤の突っ込みに答えられなくなった吉澤。
「言えない事情なんか?」
何も答えられない吉澤。

 辻が顔を上げて中澤に話しかけた。
「あの・・お願いがありまず」
中澤は辻に顔を近づけた。
「なんや?なんでも言うてみ」
辻は顔を涙でいっぱいにしながら訴えた。
「一日だげでも・・みんな仲良ぐじでぐだざい」
「分かった・・まかせとき」
中澤はそう言うと楽屋を出て行った。

 しばらくして中澤が矢口と後藤をつれてきた。
中澤は両手で無理やり二人をくっつけていた。
あからさまに不満そうな矢口と後藤。
「どや・・ほら!仲良しや」
辻は中澤の言葉に目を白黒させた。
「中澤さん・・・」
吉澤が飽きれた声で言った。

 ぞろぞろと他のメンバーが入ってきた。
「何やってんの?裕ちゃん」
矢口と後藤を両手で抱く中澤を見て安倍が言った。
「あ・・いや・・・仲良し・・」
中澤は焦った。
「もうやめてよ裕ちゃん!」
矢口が大きな声で言った。
「いや!仲良しや!仲良し」
中澤はさらに力をこめて二人を抱いた。
中澤を見て安倍がふきだした。
「裕ちゃんどうしたの突然」
保田も笑った。みんな笑った。矢口と後藤と中澤は以外は。
楽屋に笑い声が響いた。
辻もやっと笑顔になった。少しでもみんなが仲良くなった。

 夜になり、辻は眠らずに小さな人間が現れるのを待っていた。
部屋を片付け、きっちりと出かける格好をしたまま座って待っていた。
覚悟は出来ていた。
しかし連日の疲れからついウトウトしてしまった。

 目の前があまりに明るいので辻は目がさめた。
「あ・・・」
目の前には小さな人間がフワフワと浮いていた。
辻は唾を飲み込み、覚悟をきめた。
「何も出来ませんでした」
辻は涙を流した。
「覚悟出来てます」

「あなたはがんばりましたね」
小さな人間はやっと話し始めた。辻は黙って聞いていた。
「みんながそれぞれ悩みや苦しみがある事が分かりましたね」
辻は小さく頷いた。
「仲が悪い人達はどちらが悪いわけでは無いという事も分かりましたね」
辻は小さく頷いた。
「あなたは一人では出来ない事を友達に協力してもらう事も憶えましたね」
辻は小さく頷いた。
「あなたは苦しいとき友達に本音を語りましたね。嘘偽りなしに」
辻は小さく頷いた。

「では・・・」
小さい人間の言葉に首を縮める辻。
「みんなさようなら」
辻がぽつりと言った。
「合格です。このまま残りますか?」
小さな人間の言葉に唖然とする辻。
「聞こえませんでしたか?」
辻は首を横に何回も振った。
「このまま・・・ここに居させてください!」
辻はお腹の底から大声で叫んだ。
 「では、このままここに居てください。またそのウチお会いしましょう」
小さい人間はそう言った。
「待ってください・・・なぜ合格なんですか?」
辻は小さな人間に聞いてみた。
「さっき言いましたよ・・合格の理由は」
「あなたは信頼出来る友達と協力してみんなの悩みを理解してあげてください」
そう言うと小さな人間は一瞬にして消えてしまった。
辻はそのまま座って呆然としていた。

 次の日。これから始るツアーのレッスン。
安倍が遅刻してやってきた。
「いやぁ・・ごめん」
保田が安倍を一瞥して言う。
「まったく・・・」
睨み合う安倍と保田に割り込む辻。
「ケンカしちゃダメです!安倍さんもしっかりしてください」
安倍は少し驚きながら辻に答えた。
「ごめんなさい・・」

 一息つくヒマもなく矢口と後藤の言い争いが始った。
「よっすぃー・・お願い」
辻はそう言うと吉澤の背中を押して矢口と後藤の間に押しこんだ。
「ちょ・・・ののちゃぁぁぁん!」
吉澤の叫びに聞く耳持たず、中澤のもとへ走る辻。
「さっ、リーダー。号令かけてください。いつまでも始りませんよ」
「お・・おぉ」
辻に急かされて驚く中澤。
「始めるよ!いつまでも騒いでない!」
中澤の号令で動きだすモーニング娘。
楽屋は今日も賑やかだった。

終わり。

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